20年以上前のこと。今も忘れられない出来事がある。父親といとこの家に行き、扉を開けたら、いとこが首を吊って、自ら命を絶っていた。
その日は、何故かとてつもなく心が落ち着かなかった。
その日は私はバイトに行っていた。でも、なぜかバイト中、今までに経験したことがないくらいに心がモヤモヤして気持ちが悪かった。そのモヤモヤ感は、20年以上経った今でも覚えている。
バイトの途中だったか、バイト終わってからだったか、母親から『数日いとこと連絡が取れなくなってて心配で気になるから、父親と一緒にいとこの家に見に行って欲しい』と言われた。
父親と一緒に見に行き、外から見ると室内は電気が点いてるし、何も深くは考えてなかったが、心のモヤモヤ感はとてつもなく大きかったことを覚えている。
合鍵で扉を開けると、部屋と部屋の間辺りでいとこが首を吊っていた。
父親が急いで、いとこを床に下ろして、(母親に)連絡してくれと私に。
私は母親に連絡するが、手が震えて、言葉も出てこない。
電話すると母親は電話先で、今まで聞いたことのないような声で泣き叫んでいた。
もっと甘えたかった、もっとそばにいて欲しかった。
いとこは命を絶つ1年か2年前に、私達が住む町に来た。
それまでは遠く離れた地方に住んでいたけれど、色々な理由があって、私達の住む町に来ることになった。いとこは母子家庭で育ち、母親は仕事で忙しかった。そして、いとこの母親は、いとこが小学生の高学年頃に、ガンで亡くなりました。なので、幼い頃から祖父母に育てられたような環境でした。
いとこはすごく寂しがり屋のところがあって、本当はもっと母親に甘えたかったんだろうけど、その母親は仕事で忙しくしていて、その最中に母親が亡くなったから、なかなか甘えられなかった・我慢していたのかもしれません。
私達の住む町に来た時は、いとこは20歳は超えていたのですが、私の母親に何度も『寂しい』と言っていたそうです。私の家に寄り、その帰り道、夜で暗いから父親が送っていくと、帰り道、父親の手を握り締めていたこともあったそうです。
幼い頃に離婚で父親は物心つく前にいなくなり、母親も思春期前に亡くなって、親の温もりをずっと求めていたのかもしれません。
寂しさからか、学生の頃はすごく素行が悪く、町でも有名な荒れ具合だったらしいし、何度も警察のお世話にもなっています。
高齢にも関わらず祖父母は、亡くなった母親に代わり、いとこのことを良くしてくれていたと思うけど、やはり実の親ではないし、思春期に入る頃に母親を亡くして、両親がいなくなり、その時から心が不安定だったんだろうし、ずっと寂しさがあったのかもしれません。
生きて欲しかった。あなたの声をもっと聴きたかった。
過去の素行の悪さがあるので、自分が住んでいる町だとどうしても甘えが出ると。なので、自分が住んでいた町から離れて、一からやり直したいとの気持ちで、遠く離れた私達の住む町に来たそうです。
私達の住む町に来たいとこ。来た時には、すでに心が病んでいる状態でした。
精神科に通院しましたが、重度のうつ病と診断されていたそうです。
兄弟の中では、いとこの年齢に私が一番近かったので、もう少し話を聞いてあげたら良かったと、年齢が近かったから何かできたのではないかと、今でも後悔しています。
私が聴いた所で何も変わらなかったかもしれないけど、いとこの声をもっと聴きたかった。
あなたがいなくなると、誰かの人生の一部が欠けていく。
いとこが自ら命を絶ってから数年間、私も何か、自分の人生の一部が欠けたような、抜け殻になったような感覚になりました。何をしても気持ちが入らない感覚になりました。
悲しすぎてなのか分からないけど、心がとてつもなく虚しくなり、抜け殻のようになり、大きなとある駅で、幽体離脱のような感覚になったことを鮮明に覚えています。
自分の魂というか意識が、身体から抜けて、空の上から人混みに紛れて呆然と立っている自分の身体を眺めていました。
自分の人生って、自分1人だけで彩ったり、形作っていたりするものではないんですよね。自分の周りには、いろんな人がいて関わって、自分の人生を作ってくれている。
だから、その中の1人が欠けてしまうと、自分の人生の一部が欠けたように感じる。
私といとこは親密ではなかったけど、それでも私の大事な、かけがえのない1人だったんです。
それは私だけでない。私の母親も、私の父親も。他にも…。
いとこは、それぞれの人の人生の、大事なかけがえのない1人だったんです。
だから、もっと生きて欲しかった。
あなたの声をもっと聴きたかったし、私の声ももっと聴いて欲しかった。
あなたに会いたいと思っている人がいる。
もっと会えばよかった。
もっともっと会えばよかった。今もまだ私はそう思っている。
もし今、自分が嫌になって、
もう死にたいと思っている人がいるなら
今はその場所から逃げればいいから
今は何もしなくてもいいから
でも、あと少しだけでいいから生きて欲しい
この先に、あなたに会いたいと思っている人がいるから
あなたに会いたいと待っている人がいるから
今も会いたい。
亡くなった母親のいるあの世に行けて、甘えることができて良かったねと思う気持ちと、でももっと生きてもらって、いとこの人生を見たかったとの気持ちがある。
だから、今も会いたいと、ふと思うことがある。
生きていたら、いとこの人生はどう彩られてたのか、
生きていたら、私の人生にどう関わっていたのだろうか、
もう会えないけど
今も会えたらと、ふと思う
あと少しだけでもいい、生きて欲しい
あなたの話を聴きたいから
少しだけでもいい、声を出してみて
あなたの心を感じたいから
少しだけでもいい、瞳を見つめて
あなたに会いたいと待っているから
あと少しだけでもいい、生きて欲しい
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